学部学生の方へ


さて皆さんは水圏生物科学専修についてどんなイメージを持っていますか?農学部にあるから水産業に関連する学問をするところ、 といった漠然とした印象があるくらいかもしれません。農学の使命は生物機能を有効利用し、私たちの生活をよりよいものにすることです。 これには食糧生産も含みますし、健康の増進、自然環境の保全など、個人から社会に至る広範なテーマと密接に関わっています。みなさんには農学部とは、 そして水圏生物科学専修はどんなところか、イメージだけでなく、できるだけ正確な知識を得て進路決定の参考にして欲しいと思います。 教養学部にも水圏生物科学に所属する教員による講義がいくつか用意されている ので、 そのような講義を通して水圏生物科学の一端に触れることもできます。ここでは水圏生物科学の魅力をほんの少しだけ紹介することとします。

水圏という言葉にどんなイメージを抱くでしょうか。なんとなく分かっても、なにかしっくりしない印象をもつかも知れません。水圏とは地球上で水に覆われ た空間すべてのことです。 生物の生息場所という視点から水圏を見てみましょう。広大な海の隅々まで、氷点下の氷山の下にも、10000メートルを越す深海にも、熱水が吹出す鉱床の まわりにも、生物の生息していない海はありません。 水圏は海だけでなく陸地にも及んでいます。川、湖などはもちろん、熱湯の温泉、飽和の塩水湖、さらには養殖池、金魚鉢の中も生物の生息場所です。 40億年の昔、生命は原始の海で誕生しました。気の遠くなるような進化の長い年月の中で生物は独自の適応戦略を身につけながら水圏のすみずみにまで進出し て行きました。 そしてその多種多様な生物が互いの複雑な相互関係の中でそれぞれの繁栄をめざした結果、実に魅力的な水圏生物の世界ができあがったのです。

スーパーの売場を思い出してください。さまざまな種類の魚、エビ、イカ、タコ、貝、ウニなどが並んでいます。ワカメ、コンブ、海苔も水圏の生物です。食 用に限らず、水族館での展示や、 スキューバダイビングによるサンゴやイソギンチャクの美しい映像、池や川に棲むトンボ、カゲロウ、タガメ、アメンボなどの昆虫、ワムシ、ミジンコや植物プ ランクトン、 その他海綿、プラナリア、ゴカイなどなど、人によりさまざまなものを思い出すでしょう。水圏生物というと響きが堅苦しく感じられますが、皆さんにとってた いへん身近な存在なのです。

その名の通り水圏生物についてあらゆる側面から研究を行う学問です。農学部の使命は生物機能の有効利用です。農学部の他の専修が主に陸上の生物を対象に しているのに対し, 私たちは水圏生物の高度かつ有効な利用について一手に引き受けています。したがって、その研究領域はきわめて広範で、研究手法は多岐にわたり、研究の観点 は多彩です。 水圏生物には陸上生物とは異なる特徴的な生命現象が多く存在します。これを解明することは、生物機能の有効利用を行ううえでとても重要です。その情報をも とに、より高機能で安全、 そして良質な食糧生産を目指すために分子生物学・生化学的アプローチを駆使する分野もあります。また食資源としてだけでなく、水圏生物種に含まれる成分の 化学的多様性に着目し、 創薬資源ととらえるアプローチも進められています。さらに、このようないわば生物個体における現象だけでなく、多様な海の生物の動態や環境とのかかわりを 明らかにすることも水圏生物科学の使命です。 そのためにフィールドでの調査も重要です。これをさまざまな分析技術やモデル計算と組み合わせることによって、養殖環境等での水圏生物の疾病防除や赤潮と いった局所的課題から、地球規模の漁獲量・環境変動に至るまで研究対象としています。 このように私たちの専修は、水圏生物・環境という変化に富んでいて、それぞれの生物種が複雑に影響し合っているものについて多様な観点から研究を進めてい ます。 研究室の詳細について知りたい方は[研究室紹介]をご覧ください。

3年生は授業と実験・実習が主体です。農学部の課程専修制の下では、必修科目以外はどのような講義を履修しても構いません。 実験は必修で、水曜から金曜の午後に設定されています。また浜名湖と油壷の実験所で行う実習も必修科目です。 大海原にこぎ出して、自分たちで仕掛けた網に魚がかかった時の感動など、他では絶対に経験のできない貴重な思い出となることと思います。 このような経験・学習を通して、水圏生物科学という広大な分野についての理解を深めていくとともに、自分の進む道を選択していくことになります。 講義・カリキュラムの詳細を知りたい方は[学部学生のカリキュラム]をご覧ください。

4年生になると、卒論研究を遂行するために研究室での生活が始まります。研究室では諸外国からの留学生を含めた大勢の大学院生の中に入り、研究を中心に 据え充実した日常生活が始まります。 また、4年生は卒業後の進路として大学院への進学か就職かを決める時期でもあります。大学院への進学を志す場合、8月後半に入学試験が行われるので、 それに向けて準備をすることになります。大学院では東京大学大気海洋研究所に所属する研究室も水圏生物科学専攻に属するので、選択肢がさらに広がります。 大学院生になれば水圏生物科学の面白さを一層満喫できると思います。  ここでは水圏生物科学のほんの一部を紹介したに過ぎません。生き物が好き、化学が好き、分子生物学に興味がある、環境問題や食糧問題をテーマに勉強した い、旨い魚が食べたい、 大海原に乗り出してみたい、研究室での生活に憧れる、まだ何をしたいか分からない、要するにどのような興味の持ち様でも対応ができるのが水圏生物科学で す。皆さんを歓迎いたします。